スノモノモ

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【映画ネタバレあり感想】グリーンブックを見たので、シナリオや演出について語ってみる



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こんばんは、レンチです。

 

 

前々から友人にオススメされていた映画、グリーンブックを見てきた。

https://gaga.ne.jp/greenbook/

 

まず、感想として、悪い点が無く、安定して万人が満足出来る映画だなと思った。映画館で見て良かったなぁと思える映画。

差別的な描写(映画のテーマでもあるので切り離せない)、仄めかす程度に同性愛の描写があるが、家族や恋人とじっくり見に行くのに適していると思える。

 

弱さを抱える二人が理解しあっていくというヒューマンドラマが好きなので、実話ベースとは言え、かなり色々考えさせられた。個人的には結構好きな映画。

 

 

関係性と人間の変化の描写が素晴らしい

簡潔な人物描写

主人公は、粗野な雇われドライバーのトニー。自分が上手く立ち回り金を得る為ならちょっとした悪事もいとわない。教養も無く、雑な生活を送っている。

冒頭からこのトニーの性格や生活の説明が、最低限のシーンで為されていて凄い。他人を買収して要人の帽子を自分の元へおいて置き、後程、金と信頼を得る。腕っぷしの強さ。ゴミ箱を漁る雑さ。牛乳を一気飲みし、足の裏を手で払ってベッドに潜り込む……そんな雑な生活の一方で、仲間からの信頼や家族愛も描かれ、ものの数分でトニーの環境や性格が伝わってくる。ああ、こいつは粗野だけど情に厚く家族思いな良いやつっぽいなと。そして、しっかりと黒人の使用したコップをゴミ箱に捨てるなど、根深い差別意識も持っていることが描写される、

 

そして、そんなトニーを雇うのは黒人でありながらも天才ピアニストのシャーリーだ。

まず、トニーがシャーリーのことを医者だと思いこむところから二人の世界の違いが面白く描かれる。

シャーリーの部屋には高価な置物が並び、部屋の中央に玉座のような豪華な椅子。本人は"ジャングルの王"の様な衣装を着ている。対してトニーはよれたシャツに中年太りの様相。トニーが色々気を使って話しかける内容も的を得ておらず滑稽である。

 

俺は召使じゃない、さらには給料上乗せを提示して帰宅するトニー。しかし、シャーリーはその条件を飲む。ここで、奥さんに電話で了解を得るところがまたシャーリーのキャラクター性を表していて良い。

 

その後、車に乗り込むときに絶対に荷物を運ぼうとしないトニーにもくすっと笑ってしまう。

 

 

魅力的なシーンの数々

車内でのやり取りも二人の関係性が繊細に描かれる。

トニーは家族のことを話している一方、シャーリーは孤独だ。トニーの手紙にも書かれているように、シャーリーは楽しそうじゃないのだ。

 

ツアー一回目の演奏が始まる。

斜に構えていたトニーは、シャーリーの演奏に思わずニヤリとしてしまう。妻への手紙にも、あいつは天才だと書いてしまう程に魅了されてしまう。

 

途中の出店で翡翠を盗むトニーと、それを咎めるシャーリー。シャーリーの清さと、粗野なトニーの対比がここでも効いてくる。

 

二回目の演奏では、ゴミが入っている上に種類の違うピアノを交換するように凄むトニー。トリオのメンバーが、何か問題を起こすんじゃないかとハラハラしている一方で、視聴者である私もハラハラしてしまった。しかし、トニーは自分の意思でシャーリーの演奏のセッティングを進める。関係性が一歩前進しているのだ。

観客が満足そうに演奏を聴く中で、その観客の表情をみて満足気なトニー。トニーがシャーリーに興味を持ち始めている。

 

特にこの映画で一番話題になるのが、フライドチキンのシーンではないだろうか。

フライドチキンを食べたことが無いというシャーリーに、無理矢理フライドチキンを勧めるトニー。(黒人奴隷の為の食事でもあるフライドチキンを食べたことがないシャーリーが、いかに黒人の文化から外れている存在かが分かるシーンでもある)(そして、黒人なのにフライドチキンを食べたことが無いのか!というトニーの潜在的差別意識も描写される)

トニーに、食べろ食べろと押し付けられ、毛布に脂が付くと拒否しつつも指先で上品に持ってチキンを齧るシャーリー。

骨はどうするんだと問えば、こうするんだよ!と窓から骨を投げるトニー。一緒に骨を投げ、思わず笑っているシャーリーとトニーに、視聴者も笑顔になってしまう。

そして、勢いのままに紙コップをポイ捨てするトニー。後部座席で愕然とするシャーリーの表情。……バックでコップまで戻り、「拾いなさい」と怒られゴミ拾いするトニー。ここで、ふふっと思わず声を出して笑ってしまった。

 

 

視聴者に想像させる人物の内面描写

南部に行くにつれて、差別が色濃くなっていく。

トニーとシャーリーの関係性が深まっていくほど、シャーリーへの差別が酷くなるという構図は心が痛む。

バーで飲んで袋叩きに会うシャーリー、YMCAで警察に捕らえられるシャーリー。どれも正当な理由は無く、差別意識によるものだ。

 

最初に出会ったときに、酒を毎晩用意してくれというシャーリーに、飲むのに付き合おうかとトニーが提案し、シャーリーは断る。しかし、後半では一緒に酒を飲みながらシャーリーは過去を曝け出す。関係性の変化が分かりやすい。

 

また、YMCAで捕らえられ、トニーが「俺に言ってくれれば」と言うと「今夜のことは知られたくなかった」というシャーリー。トニーとシャーリーの間にはまだ乗り越えるべき壁、乗り越えられない壁があることを突きつけられる。

 

そして物語は中盤後半。

黒人は夜に外出するなという理不尽な理由でIDの提出を求められるシャーリー。そして、警官の差別が自分に向けられて暴力を振るってしまうトニー。二人は牢に入れられてしまう。

シャーリーは差別にも耐えてこそ勝利だという強さを見せる。暴力は敗北だと語る。

そして、知事の電話によって助けられ一安心のトニーに対し、それを恥だと言うシャーリー。シャーリーが今までどれほどの理不尽な差別にさらされてきたのか、勝利のためにどれほど耐えてきたのかを想像させられる。

 

トニーは、自分より教養があり強く生きるシャーリーに対し、「自分はシャーリーより黒人らしく、シャーリーは自分より白人らしい」と言ってしまう。

トニーもトニーで、シャーリーとの対比の中で自分の存在が揺らいだ結果の弱音だったのだろう。俺は俺だ!と主張するトニーも、自信を失いかけていたのではないだろうか。この言葉には自虐こそあれど、シャーリーを侮辱する意図は無かったのだろう。

 

しかし、これまで、「黒人だから」というだけであまりにも酷い差別に苦しめられてきたシャーリーにとってこの言葉はさぞ辛かっただろうと想像できる。

自分の音楽を教養の為だけに消費する人々。舞台以外では白人から差別を受ける。

黒人からは、その態度や教養故に、気取っちゃってなどと怪訝な目を向けられてしまう。

 

自分は何なんだ!白人でもなく、黒人にもなりきれない、人間でもない自分はなんなんだ!と、冷静なシャーリーが初めて声を荒げる。

 

最後の演奏会では、レストランへの入場を拒否されてしまうシャーリー。トニーも穏便に済ませてツアーを成功させようとする。ここでも耐え忍ぶのだろうと視聴者が予測する中で、シャーリーは演奏を拒否する。

 

 

「勇気が人を変える」

「勇気が人を変える」というセリフは、トニーとシャーリーに対してではないかと私は思う。南部へのツアーによって、差別を変えることは結局できなかった。黒人からの冷たい視線も変わらなかった。

 

それでも、トニーという男たった一人だけでも、差別への意識は変わった。シャーリーは、トニーを通して、孤独を乗り越えた。確かに、変わったのだ。

 

 

 

そして、帰り道では再びパトカーに止められてしまう。

トニーやシャーリー、視聴者はきっと、ああまた難癖つけられてしまうのか……と思ったに違いない。しかし、警官はパンクを指摘し、メリークリスマスと言って二人の道中を案じてくれる。確かに、少しずつだが人々は変わっていくのかもしれないという希望が描かれる。

 

シャーリーのことを、シャーリー個人として受け入れたトニーという存在。

イブの夜に帰りたいと言うトニーの為、自ら車の運転をするシャーリーに思わず目頭が熱くなる。

 

家に着き、家族に会って行けよというトニーの誘いを断り一人の城に帰るシャーリー。空いた玉座には座らない。トニーとの旅で得た翡翠を眺める。

そして、ラストには自らトニーの元へ会いに行くのだ。

寂しいなら自分から先手を打たなきゃ、というトニーの言葉に答えられなかったシャーリーが、自ら孤独を脱するラスト。あまりにも愛おしい。

 

そして、トニーも家族に対して差別用語を口にするのを咎める。一緒になって黒人を馬鹿にしていた冒頭との対比となっている。

皆がトニーの書いたものだと思い込んでいた手紙を、シャーリーによるものだと見抜いていた妻。シャーリーの優しさに感謝を伝える。これも愛があって気持ちのいいラストだ。

 

上手ぇ~~~(感想)

全編を通して、シャーリーとトニーの対比が分かりやすく軽快に、それでいて問題提起もしっかりしている。冒頭とラストの人間性や関係性の変化も見事な描写である。それでいて、無駄なシーンはほとんど無い。長々しい飽きてしまうようなシーンも無い。

上手いなあと驚嘆してしまった。

 

 

緑色というキーカラー

ポスターでも目を引く美しい緑色の車。グリーンブックというタイトルとそのガイドブックの色と共に、全編を通して緑色が生かされている。

シャーリーとトニーが乗り込む車の色。そして、道中で手に入れる翡翠石の色も緑だ。

シャーリーが演奏を行う会場の壁紙もこの緑色と同じ色になっている。

そして、宿に泊まる二人を照らす、窓から差す街灯の色も緑色だ。

 

映画に統一感が出ていて、無意識のうちに刷り込まれている印象。映画に同じ色を効果的に使うのは手法の一つでもある。

 

 

トニー役のヴィゴ・モーテンセンロードオブザリングアラゴルン役と同一人物という驚き

トニーは中年太りのガサツで乱暴で下品なおっさんなのだ。それでいてずっとタバコを吸っている。

ロードオブザリングアラゴルンの面影も無い……俳優の役作りには毎回驚かされる。

 

 

まとめ

映画、グリーンブック。アクションなどのジャンルではないので映画館で無理してみなくてもいいかもしれない。

しかし、音楽も効果的で美しく、画も美しいのでぜひ映画館で見てほしい。

家で見てしまうとなんとなく気が散ってしまう中で、映画館で集中してみることで、シャーリーやトニーの複雑で繊細な心情をじっくり想像できるだろう。

2時間以上の上映時間なので長めに感じるが、内容的にはテンポも良く無駄なシーンが無いので満足度が高い。おすすめ出来る映画だ。